「ヒューマンライブラリー」で多様な生き方、多様な価値観に気づいていく
「おとなの対話の会 本当の話をしよう」第3回目を6月18日に開催しました。この対話の会は、毎月第3火曜日のお昼に、ベネッセ社員や、みらいキャンパスの保護者の皆様、講師、未来の学びデザイン300人委員会の皆様にご参加いただき実施しています。
今回は、 多様な生き方や価値観に触れるべく、ご自身の人生の物語を話してくださる「本(ほん)役」のかたを9名お招きして、人生語りをしていただきました。その全容をみらいキャンパス総合責任者の城座(しろざ)がレポートします。
本役のみなさま
■星竜也さん(LGBTQ)
小学校時代に同性への恋愛感情に気づき始め、周りには知られてはいけないという苦悩や本当の自分を知って欲しいという葛藤をもち子ども時代を過ごす。カミングアウトすることで、相手との関係をあらためて築いていく、その勇気や希望を語ってくださいました。
■小澤綾子さん(筋ジストロフィー)
難病・筋ジストロフィーと闘いながら、歌手としてご活躍。東京2020パラリンピック閉会式に出演されるなど、多くの人々に希望や勇気を与え続けられています。病気のこと、幼少期のこと、心の支えになった出逢い、活動の原点となったエピソードなどを語ってくださいました。
■yummyさん(おとなの発達障害)
■森田さん(ひとり親家庭)
■山川さん(薬物依存症)
■近藤さん(統合失調症)
■のぶこさん(摂食障害など)
■まつりさん(LGBTQ)
■加藤さん(生きづらさ)
ヒューマンライブラリーはデンマーク発祥の他者理解の対話の場
事の発端は、わたしたち「未来の学びプロジェクト」が「みらいキャンパス」という対話型の学びの場をつくりはじめたときに、社内企画書上で「ヒューマンライブラリー(人間図書館)」と名乗っていたことです。途中で、「ヒューマンライブラリー」という言葉のライセンス(商標)がデンマークで獲得されているということを知り、「それはどのような場なのだろう」と興味を持つようになりました。
ヒューマンライブラリーは、生きづらさを含む人生の物語を話してくださるかたを「本(ほん)役」として招き、そのかたを少人数で囲んでお話を伺う、という機会です。30分ほどお話をきいたあと、その本役のかたを傷つけさえしなければ、どんなことでも質問してもよい、という対話の時間もあります。なんらかのマイノリティのかた、生きづらさを抱えたかたを本役としてお招きすることが多いのも特徴です。少人数でそのかたの人生物語を傾聴することで、マイノリティとして生きる生きづらさを抱えたかたへの理解が深まり、むしろ、絆を感じたり、共感をおぼえたりするなど、心のバリアが自然に溶けていくような体験ができることが多いです。
城座自身は、幾度か、東京ヒューマンライブラリー協会が実施する場で、この対話を体感しました。さまざまな人の生き方や価値観に触れながら、自分自身も内省することで成長していけるようなこの機会にとても魅力を感じ、今回のみらいキャンパスでの実施を決めました。「対話」がもつ可能性をもっと、プロジェクトメンバーや参加者の皆さんと分かち合えたらうれしいな、という気持ちもありました。
自分語りをしてくださる本役(話し手)のかたへの敬意と感謝
いくら「心理的安全性が高い」場づくりを心掛けているとはいえ、初対面同士が多く集まるオンラインの場で、自分の物語を話す、というのは、心の準備や気構えも必要かと思います。それでも、それぞれの本役のかたは、ご自身の内面や生きづらさの話をすることで、互いに深い人間性を理解しあうことにつながり、もっと互いにやさしい世の中を創っていけるのではないかと信じて、その場に立ち、お話をくださいます。まず、そのことへの感謝や敬意の声が、事後のアンケートからはたくさん読み取れました。LGBTQとして生きる人、薬物依存を乗り越えてきたかた、障がいや病気、家庭環境などに囚われ苦しみながらも、自分なりの幸せを築こうと生き抜いてこられたかた。さまざまな人生物語を傾聴するうちに、ひとつひとつの人生の尊さと、苦悩や葛藤への共感、思いやり、人間同士が持ちうる慈愛のような温かな空気が、ひたひたと、オンライン上のルームの中を漂い始めます。
「ふつう」ってなんだろう。決めつけることが生きづらさにつながることがある
対話の中で「“ふつう”ってなんだろう」という話が出ました。みんな「ふつうがいい」と思って「ふつうじゃない人」を奇異な目でみたりする。でもその「ふつう」って誰がつくった、どんな基準でしょうか。いったい、こう書いている私自身は「ふつう」なのでしょうか。私というひとりの人間の中に、「でこぼこ」が共存し、ときどき不器用に表出してしまったりしながら、そのでこぼこ自体が、人間らしい味となり、誰かを受容したり、励ましたりするやさしさにもつながることがある。
事後のアンケートでも「皆が多かれ少なかれ、“なんらかのマイノリティ”であるはず」という声もありました。また、本役のかたが、感想として「個性だね、と決めつけられるのも苦しい」とも会の中で語られました。なにか、人を型にはめてみてしまうこと。自分の価値観を通してなんらかのジャッジをいれて決めつけてしまうこと。それが、人の「生きづらさ」をつくってしまうことがあるのだと感じました。
だれもが「ありのまま」に「自分らしく」生きられる世界へ
人間はひとりひとり、「自分という殻」を一生脱げません。違うものに生まれ変わりたいと願っても、それはかなわない以上、ひとりひとりが、ありのままの自分でいられることが受け止められていく社会でありたい。
ひとりの本役のかたが、あるルームの対話の中で「苦しかった子ども時代、まわりのおとなにどんな言葉をかけてほしかったですか」と尋ねられ、「だいじょうぶだよ、そのままでいいんだよ、といってほしかった」と回答されました。その言葉に、世の中に必要なことの本質が凝縮されていると思いました。すべての子どもたちに。そして、自分をとりまく周囲のおとなの友人や同僚たちに。家族や近しい人に。「だいじょうぶだよ、そのままでいてね、あなたの良さを知っているからね」と接することができているでしょうか。そして、自分自身は、誰かに「そのままのあなたでいていいんだよ」と受け止めてもらえているでしょうか。ありのままの自分をさらけだして受け止めあえる人間関係をもてているでしょうか。その関係を大切に、感謝できているでしょうか。
そんな内省の問いで心がいっぱいになった会でした。
最後に、参加者のかたからいただいた感想を2つ共有します。
■自分と違うことに対して、自分は小さな怖さを感じます。その気持ちが、マイノリティの人を差別してしまうことにつながってしまうと考えています。なので、知ることがとても大事だと思うのです。多様性のある教育が、子供の小さなころからできるといいと考えます。
また、大人も知らないと、と思います。身近な大人の考え方が、子供に影響するからです。
このような「知る機会」がとても、大事だと思いました。
■いろいろな人がいる、ということを、自分を通して周りに伝える本役をされている方を心から尊敬しました。みんなそれぞれが何かのマイノリティ(のはず)であり、自分もそうした面があるけれどあえて発信はしないでいますが、それぞれがそれぞれの弱みや生きづらさ、そして弱みや生きづらさだけではなくて喜びややりがいなど、全部を含めてのひとりの個であることを伝えていくようなことに、自分も少しでも携わっていきたいなと感じました。
ほかにも考えさせられるご感想をたくさんいただきました。とっても反響の大きな会となりました。このように、ひとりひとりの気づきや内省につながる場をつくれたこと、お力添えくださった本役、司書役の皆様、東京ヒューマンライブラリー協会、ヒューマンライブラリー沖縄の皆様に、心より感謝申し上げます。貴重な機会で多くの学びをいただき、本当にありがとうございました。心より、おひとり、おひとりを尊敬申し上げております。必ず、今回いただいた気づきや想いを、子どもたちとの学び合いの場づくりや、人間としての自分の在り方、振る舞いそのものに活かしてまいりたいと思います。その先に、ひとりひとりが、その人らしく生き、受容し合えるやさしい社会がさらに築かれていくことを信じて。
「おとなの対話の会 本当の話をしよう」は毎月、趣向を変えながらすすめてまいります。次回は7月16日(火)のお昼です。教育現場のプロをお迎えして、「子ども時代の経験や活動が、どのように学びとなり、その後の人生を形づくっていくか」について話し合います。無料でご参加いただけるオンラインのカジュアルな会なので、前回お越しくださったかたも、次が初めてのかたも、ぜひお気軽に立ち寄っていただけましたらうれしいです。ご一緒に、皆さんそれぞれの「本当の話」に耳を傾けあっていきましょう。
■次回の「おとなの対話の会 本当の話をしよう」
▼詳細はこちらから(PDFが開きます)
▼お申込みはこちらから
■東京ヒューマンライブラリー協会
https://www.tokyo-humanlibrary.com/
■ヒューマンライブラリー沖縄
https://sites.google.com/view/human-library/
城座多紀子 Takiko Shiroza (みらいキャンパス総合責任者)