「なんとなく」ではなく「自己決定、自己修正」する進路選択へ 

共創レポート
2024.09.02

「おとなの対話の会 本当の話をしよう」第5回目を8月20日に開催しました。この対話の会は、毎月第3火曜日のお昼に、ベネッセ社員や、みらいキャンパスの保護者の皆様、講師、未来の学びデザイン300人委員会の皆様にご参加いただき実施しています。
今回は、 現役の高校の先生をお招きし、高校生が自分軸に沿って進路を決めていくために、大人はどんな寄り添いをするとよいか、というテーマで語り合いました。その対話の様子をみらいキャンパス総合責任者の城座(しろざ)がレポートします。 

■森本裕子 氏

笑いとユーモア、愛情いっぱいに生徒に寄り添い続ける埼玉県立高校の先生。夜間定時制高校勤務時代に、子どもたちの進路選択と正面から向き合い、伴走。低学年のうちのキャリア教育が重要と気づき、生徒たちを外部のおとなに多く出会わせる機会づくりに奮闘。

■木野雄介 氏 

フリーランスで主夫な多眼的複業教師。広尾学園中学校・高等学校にて10年間、社会科教諭として勤務。現在は、教師の新しい生き方「複業教師」の実践者として、複数の高校で探究科講師を務めながら、さまざまな企業・団体とともに教育界を拡張中。 

先行き不透明の時代こそ、自分で自分の人生の舵をとるための「ライフデザイン力」 

会の冒頭に、まずは、みらいキャンパスの城座より、今の高校生にとって、なぜ「自分軸に沿った進路選択」が大事なのか、というお話を、ギュッとエッセンスを絞ってご紹介しました。変化の激しい激動の時代、職業の枠組みすら変わるかもしれないこのご時世に、今の高校生の約半数は、100歳まで長く生きることになる。時代の変化に柔軟に適応して、波を乗りこなしていく(サーフしていく)ような「しなやかさ」が必要になってくる時代です。そのためにも、「自分は何が好きで、どんな価値観、どんなビジョンを大切にしている人間なのか」という「自分軸」をしっかりと携える。すると、時代の変化にあわせて、自分の興味や強みをどう活かすか、その変化をどう楽しんで生きるか、という自分なりの作戦を持ち、自らが主人公となって人生の舵取りをしていくことができます。 

また、こうした「自分の軸で、主体的に行動を起こしていける力」をもった学生にきてもらいたいと、各大学が独自の「アドミッションポリシー」(求める学生像などの受け入れ方針)をわかりやすく掲げるようになりました。大学入試の選抜方法も、昔の「AO入試」の選抜方式に近い、「総合型選抜」など、志望動機が明確か、成長のポテンシャルがありそうか、大学での学びや生活に前向き取り組めそうか、といった多面的な人物を見取るような方式に大きく変化しはじめています。 

こうした時代の変化や、変わる大学入試方式を目の前に、おとなが昔の常識や価値観で子どもたちにアドバイスしても、いま実態として起きている事象や、これから変わっていく変化にそぐわず、子どもたちは困ってしまうかもしれません。親世代、おとな世代が通ってきた道のりとは違う景色の時代になっていても、子どもたちにとってのよき伴走者でありたいし、よりよい教育の方向感をつかんでいきたい。そのためにも、こうして、対話の会で、現役の高校の先生に、現場でどのようなことが起こっているかを伺いながら、それぞれが思っていることを出し合うことで、子どもたちを取り巻くおとなの価値観をアップデートしていこう、というのが今回のテーマの主旨です。このような本会主催の意図が、参加者の皆さんに理解されはじめたところで、いよいよゲストトークのはじまりです。 

低学年のうちから、さまざまな大人の価値観に出会えるキャリア教育の機会を! 

高校の先生14年目の森本さんは、数年前に夜間の定時制高校で先生をされていた時代に、子どもたちのさまざまなエネルギーに触れ、ポジティブにもネガティブにも深く考えさせられた結果、ひとつの信念に行きついたそう。進路決定すべき時期に「なんとなく」進路を決めていく生徒がほとんどで、就職後、進学後に、あっけなく辞めてしまう生徒も後を絶たない。そこで「本当にこれでいいのか?」と疑問をもち、低学年のうちから「キャリアについて自分なりに考える」経験を積み重ねる重要性に気づいたそうです。そこから学外に人脈づくりをはじめ、多様なおとなの皆さんに学校に足を運んでもらい、子どもたちに出会ってもらった。 

多様なおとなや、多様な価値観に出会うことで子どもたちに変化が起きた 

さまざまな大人を学校に呼んでくるキャリアトークの会を実施したところ、子どもたちの約半数に「積極的に行動できるようになった」「物事を前向きに考えられるようになった」などの変化が見られた。ほかの生徒も、「自分には自分の考えがしっかりあることに気づいた」とか「自分の考えの中で思い直す点があった」など、自己を「メタ認知」するような思考が生まれていた生徒もいたことがわかり、子どもによって、さまざまな効果があったことが認められた。学校の先生でもない、親でもない、斜めの関係の第三者であるおとなが、子どもたちの柔らかなアンテナ、受容体にさまざま影響しうることと、その意義の大きさを感じられた機会だったとのこと。 

今の高校生は普通に暮らしていると、家庭と学校(部活)と塾、そこに足しても、せいぜいバイト先、、、といった、わりと「定まったコミュニティ」の中に留まりがちなだけに、「第三者との出会いや、そこから得られる刺激」の必要性が、対話会の参加者の胸にも響きます。 

人間ならではの「脳」をじょうずに使いこなすことで、「幸福度」をあげられる! 

定時制を離れて全日制高校に異動されたあとも、子どもたちを型にはめるような指導がどうしても多くなり、おとなも、子どもも「思考停止」「指示待ち」になってしまいがちであることに強い課題意識をもち、モヤモヤと考え続けた森本さん。その中で、特に脳科学を学びながら、未来をイメージして思考する、脳を働かせること自体が人間の幸福度につながるということに気づく。高校生が進路選択において脳を働かせるとは、子どもたちが「自分の軸はなにか」を考え、そこから「未来を展望」し、「そこに向けて自分自身をどのようにいざなっていくか」を思考し、行動していくということ。そのための環境づくりやサポートを、日々自分ができることの中で心がけていくことで、子どもたちにとって真に「心地よい居場所」ができていく。そのときに、子どもたち一人ひとりの中にある、「それぞれの答え」が見い出されていくのではないか、そのための関わりをしていきたい、という想いを語ってくださいました。 

「複業教師×主夫×フリーランス」、その生き様を子どもたちに見せていく 

続いてのゲストトークは木野さん。フリーランスの高校教師という立場をとることで、「テストをつくって子どもたちを評価したくない」という想いを学校側に伝え、テストをつくらなくてよい「探究科の講師」という役割を得ることができたという木野さん。独自の人生の描き方をすることで、それを目にする子どもたちが「こんな生きかたもアリなんだ!」と思える。その行きつく先として、社会全体で、多くの人が「やりたい仕事」につき、「住みたい場所」に住み、誰もが自分にとって最適と思える生きかたができる。そんな社会を創っていきたい、と語る木野さんの熱い想いや「自分軸」、よいエネルギーが参加者にも画面越しに伝わってきます。 

社会を「ヒエラルキー」で捉えず、「フラット」なものとして捉え直す 

甲子園は頂点をめざすもの。偏差値は高いほどいい。そのように、「ヒエラルキー」で社会を捉えていくと、「高い場所、頂点の椅子取りゲーム」になってしまう。偏差値至上主義。今の子どもたちが進学や受験で苦しんでいるのはこれが理由のひとつかもしれません。 

そうではなく、世の中で自分の「最適解」「こう生きてみたい」という道を自由自在に選択していくために、世の中をもっとフラットに捉えられるとよいのではないか、と木野さんは提案します。たしかに、どの進学先も就職先もフラットに捉えて、「できるだけ高いところに行く(誰かを蹴落としてでも勝ちに行く)」のではなく「現時点でもっとも自分にあった場所、自分を活かせる場所を選ぶ」と考えると、もっと自由に進路を選んでいけるような気がします。「勝たないとダメ」なのではなく、「今の自分はこうだからココを選ぶ。それがだめでも、ほかの選択肢がある」と思えたほうが、人生の舵を取りやすくなります。なにしろ「成功のための一本の王道、決められたレール」はもう存在しない社会になると言われているのですから。 

自己選択→自己決定→自己修正を繰り返していく。Try & Learn、が理想的! 

子どもは、そもそも、自分の足で歩きだすもの。他人と競うために、誰かのために歩くのではない。小さな自己決定を繰り返すことで自己肯定感をあげていく。だからおとなは子どもの自己決定を妨げないようにするだけでよい。そのための空間デザイン、環境、制度を整えていく必要がある。木野さん自身の想いを、工藤勇一先生(前・横浜創英中学・高等学校 校長)の言葉を引用しながら熱く語られます。 

自己決定して「ちがうな」と自分で思うなら、また選び直せばいい。何事も経験!やり直せばいい!そんな子どもの「Try and Error」(試行錯誤)ならぬ「Try and Learn」(トライしてそこから学ぶ)をよしとし、子どもたちが「自分軸」に沿って何度でも自己修正していくことを見守り、支援していく。 

今のおとな世代が子どもの頃には「ひとつのことをやり続けるのがよし」とされ、「忍耐、我慢」も美徳のひとつであったが、子どもたちは、もっと自由におおらかに、経験と失敗と、そこからの修正を繰り返せばよい。そんな言葉を聞けて、なんだかホッと気持ちがラクになり、子どもたち世代に、自分たちが通ってきた道のり以上に明るい一筋の光が見えたように感じられました。お話が進むにつれ、参加者の皆さんからも、おおらかでポジティブなチャットのコメントが飛び交いはじめました。 

まだまだ高校生。やりたいことが見つからない子もたくさんいて、あたりまえ。 

ここまでゲストお二人のお話を伺って、自分軸に沿ってオンリーワンの人生を切り拓き、その背中を子どもたちに示そうとされている木野さんと、子どもたちが居心地よくいられるよう寄り添い、各生徒の中にある、それぞれの「答え」を引き出せるようサポートしたいと日々努力されている森本さんと。高校の先生も、皆さん一律ではなく、それぞれの個性、特性を活かして、それぞれの関わり方をしてくださっていることに気づけました。でも「子どもの中に答えがある。それを見つけ出し、子ども自身が自己決定していけるように支援したい。」という共通の価値観が見えてきて、あとに続いたブレイクアウトルームでの対話の時間では、そのことをテーマに多くの想いや意見の交換がなされました。 

また、「どの子も前向きに自己選択できるというわけではなく、進むべき方向性に迷っている子、見つからない子もたくさんいるのでは」という意見にも、多くの参加者がうなずいていました。まだまだ、15-18歳。日々の実体験や出会いや刺激、学びを通して、「(自分が向かいたい進路の方向性を)これから見つけていく」という段階かもしれません。子どもそれぞれの状況や個性にあわせて、おとなのほうも、様子を見たり、じっくり待ったり、一緒に「選択肢を広げるための社会見学」を楽しんだり、「親や先生以外のおとなや友達との出会い」を見守ったり。そんな、おとな側のゆったりとした構えも必要なのだな、と城座は強く感じました。 

■自分軸にそった進路を、たくさんの選択肢の中からフラットに選んでいける社会 
■子どもが自ら選びとっていけるようになるために、低学年のうちから、さまざまな大人、多様な価値観に出会える機会を環境として用意していく 
■子どもの中から湧いてくる「こう生きたい」と思う気持ちを尊重するために、おとなにできる寄り添いをしていく。自己決定を妨げない 

こんなヒントをいただいた、貴重な1時間となりました。それぞれの立場、見えている景色から、想いのたけを本音でお話しくださった森本さん、木野さん、参加者の皆様。そして互いの考えや価値観を大切に受け止めあおうと心を配りながら対話を楽しんでくださった皆様。おかげさまで、この会も気づきの多い、大切な対話の場となりました。ご参加くださり、誠にありがとうございました。 

「おとなの対話の会 本当の話をしよう」は毎月、趣向を変えながらすすめてまいります。次回は9月17日(火)のお昼です。みらいキャンパス人気講師のおひとり、建築家のむっちゃんこと野上むつみさんをお招きします。そして、むっちゃんの講座の2人の受講生(小学生)の保護者のかたもご一緒に、「子どもの個性・特性とどう向き合う」をテーマに話し合います。無料でご参加いただけるオンラインのカジュアルな会なので、前回お越しくださったかたも、次が初めてのかたも、ぜひ気軽に立ち寄っていただけましたらうれしいです。ご一緒に、皆さんそれぞれの「本当の話」に耳を傾けあっていきましょう。 

今回の「本当の話をしよう」のゲストスピーカーによるトークパートの録画> 

<次回9月の「本当の話をしよう」のご案内> 
■詳細ご案内はこちら(PDFが開きます) 
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城座多紀子 Takiko Shiroza (みらいキャンパス総合責任者) 

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