子どもたちが社会に合わせるのではなく、社会の側が子どもたちの多様な可能性を受けとめたい
「おとなの対話の会 本当の話をしよう」第6回目を9月17日に開催しました。この対話の会は、毎月第3火曜日のお昼に、ベネッセ社員や、みらいキャンパスの保護者の皆様、講師、未来の学びデザイン300人委員会の皆様、教育に関心のある一般のかたがた等にご参加いただき実施しています。今回は、小学生の保護者のかたと、みらいキャンパス講師の野上むつみさんをお迎えし、「子どもたちの個性や特性とどのように向き合っていくとよいか」というテーマで語り合いました。その対話の様子をみらいキャンパス総合責任者の城座(しろざ)がレポートします。
「ふつう」ってなんだろう
まずは、城座からの問いだしで対話が始まります。小学校の学級の中では、発達障害や不登校の傾向がある子、家庭で日本語を話す頻度が少ない子など、そもそも多様な個性や特性、環境にある子たちのほうが多数を占めているといわれています。子どもはそもそも、それぞれに彩り豊かな個性でいっぱいなのに、おとなが「ふつう」にあてはめようとしたり、「ちゃんとして」とついつい言ってしまったりする。その「ふつう」とは、一体、何を指しているのでしょうか。「ちゃんとして」という言葉の「ちゃんと」とは、何を思い浮かべながら、どのような状態を意味しているのでしょうか。
子どもの「ふつうではない」もどかしさを身近な大人が一緒に受けとめる
小4の女の子、僕アキ(ぼくあき)さん。勉強が好きになれず、特に「漢字など、書くことが苦手」である僕アキさんのことを、お母さまの佐藤さんは「行動力のある、勇敢な女の子」と捉えています。僕アキさんの特性に気づき、戸惑いながらも、「学校になじめないこと、今の勉強が好きになれないことは、あなたのせいではないし、学校のせいでもないんだよ」と伝え続けます。「この子なりの『好きなこと』『得意な方法』を見つけ、社会で自分を活かしていく道を見つけてほしい」と願いながら、さまざまな世界や他者に出会わせたいと、お子さんと一緒に、ミュージアムや歴史資料館に出かけるなど、さまざまなアクションをされています。「今は、好きな物探しの旅の時間なのだ」とおっしゃる佐藤さん。目線を上に向けて力強く語られる姿に、参加者はそれぞれ胸を打たれ、勇気をもらいます。僕アキさんには、なんと心づよい最強の味方がいるのでしょう!
子どもたちの多様性を受けとめる、懐の広い多様な受け皿を社会実装する必要
「刑務所みたいで学校がつらい」と吐露した、福田さんのお子さんの宮ちゃん。福田さんは「優秀か、そうでないか、という軸だけで子どもをみようとしていた」ところから、多様な特性の在り方に気づくことになります。そして、「生まれてきたこの世界をポジティブに楽しめる人になってほしい。そのために、自分の人生を自分で決めて、思うように生きてほしい」と、宮ちゃんの興味に沿った習い事やイベントなどの機会を探し始めました。でも、親が探し出してくるには、そのエネルギーにも活動量にも限界があります。子どもの個性の多様さのわりに、世の中の選択肢の多様性が少ない現状にモヤモヤする、という福田さんの「本音」に多くの参加者がうなずきます。
すべての子どもが「ありのまま」でよく、それが「普通」で、おもしろい
みらいキャンパス講師の野上さんは、そんな個性豊かな子どもたちに、「ありのままでいてほしい」と願います。なにか「こうしなくちゃいけない」「何かの基準値内に所属させなきゃ」という呪縛を与えるのではなく、すべての子どもたちが、その子らしく「ありのまま」でいられるように、受けとめたり、背中を押したり、フォローしたりしていきたい。そのための場づくりに、日ごろから情熱と愛情を注がれている野上さん。インプットの方法も、アウトプットの方法も、その子、その子にあったやり方にすればよい。そのためには、目に見えない社会規範に捕らわれることなく、まずは目の前のその子をよく見て、理解しようとすることに徹していきたい、と語ります。
おとな自身が広い世界をみることで、子どもたちがより自由になっていく
「固定化された、おとなの価値観を取り外すにはどうしたらよいのか」という福田さんからの投げかけに、野上さんは「おとなこそが、広い世界をみること」と応じます。さまざまな価値観、物事の捉え方、個性の花咲きかた、社会での活躍のしかたがあることを知ることで、おとなが子どもの「ありのまま」を受けとめ、支援できるようになっていきます。それを聴いた佐藤さんは、「人生はスタートからゴールに向かって一直線に走るものではなく。自己を中心に、同心円状に世界が広がっていくもの、と捉えたい」とお話しされ、参加者の皆さんの中にも、「ゆったりと構えて子どもたちの個性を見守っていく」「そのときに子どもたちの彩り豊かな個性、特性がのびのびと開花していく」イメージが広がっていきました。
事後のアンケートからは、下記のようなお声をたくさんいただきました。
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■子どもがさまざまな他者の鏡を見られるように、いろいろな選択肢に触れられるように、のびのびと可能性を広げられる環境を作ってあげたい。その子が何が好きか、何に興味があるか、固定観念を持たず、まっすぐなまなざしで観察してあげたい。
■もっともっと自分のフィルターをとっぱらっていきたいと感じました。とっぱらっても全然OKな場所がたくさん作られていくことで、社会が変わっていくのだと思いました。
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対話の途中で、野上さんが「そもそも、親子であっても、講師と生徒であっても、人間同士、互いに他者である以上、『1ミリも相手のことがわからない』ということが前提。それでも、相手のことが知りたい、理解したいと、心を尽くし、つとめ、互いを感じ合い、尊重する。そのこと自体が人として美しく、価値があるのだ。」と語られた言葉が胸に響きました。それぞれの立場、見えている景色から、想いのたけを本音でお話しくださった野上さん、佐藤さん、福田さん。そして互いの考えや価値観を大切に受けとめあおうと心を配りながら対話を楽しんでくださった参加者の皆様。おかげさまで、この会も気づきの多い、大切な対話の場となりました。ご参加くださり、誠にありがとうございました。
「おとなの対話の会 本当の話をしよう」は毎月、趣向を変えながらすすめてまいります。次回は10月15日(火)のお昼12-13時です。哲学者・教育学者の苫野一徳氏をお招きし、小学生をまじえて「学びとはなにか」を主題に哲学対話(本質観取)を行います。4人の代表者の哲学対話をきいたのち、参加者同士で、それぞれの考えや想いをシェアする時間もあります。無料でご参加いただけるオンラインのカジュアルな会なので、前回お越しくださったかたも、次が初めてのかたも、ぜひ気軽に立ち寄っていただけましたらうれしいです。ご一緒に、皆さんそれぞれの「本当の話」に耳を傾けあっていきましょう。
<今回の「本当の話をしよう」のゲストスピーカーによるトークパートの録画>
https://youtu.be/2nP7GKSVBqI
<次回10月の「本当の話をしよう」のご案内>
■詳細ご案内はこちら(PDFが開きます)
城座多紀子 Takiko Shiroza (みらいキャンパス総合責任者)