「食」と「ことば」、そして「多様性」が子どもの「生きる力」を育む

「おとなの対話の会 本当の話をしよう」第10回目を1月21日に開催しました。この対話の会は、毎月第3火曜日のお昼に、ベネッセ社員や、みらいキャンパスの保護者の皆様、講師、未来の学びデザイン300人委員会の皆様、教育に関心のある一般のかたがた等にご参加いただき実施しています。今回は、鹿児島県私立新留小学校設立準備財団のお二人にお越しいただき、「ひとりひとりの『あたりまえ』『ふつう』『心地よい』と向き合う教育とは」をテーマに対話をしました。みらいキャンパスの及川がレポートします。
古川理沙氏
株式会社そらのまち/株式会社無垢 代表取締役
「食べることは生きること」をモットーに、食を中心に据えた、地元とつながりあう教育実践を探究中

丑田 俊輔氏
ハバタク株式会社 共同代表
シェアビレッジ株式会社 代表取締役
「遊びと学び」「コモンズとコミュニティ」をテーマに幅広く活動している

「食」は、子どもにとって一番の題材
みらいキャンパス総合責任者の城座(しろざ)から、お二人をご紹介したのち、早速、古川理沙さんからのお話がスタートしました。
「食」とは、言葉どおり、体・脳を作るもの。3歳ごろに、嗜好の土台ができ、10歳ごろまでの味の記憶が、その後の食生活の基礎になるのだそうです。子どもたちの「食」については、気を配りたい要素の一つである、と古川さんは語ります。
そして、意識されにくいのだけれども、「食」は思考の土台を作る重要なものだ、と古川さんのお話は続きます。
最近よく耳にする「記号接地」という言葉。子どもたちはいろいろなことを学んでいるが、記号や概念が自分の身体感覚と紐づいていないため、それがなんなのかという言葉の深いところが分かっていない、ということが言われているのだそう。
「食」はまさに五感を使うもの。「食べる」「飲む」「作る」という活動は、味覚、触覚、聴覚、嗅覚と視覚を使って行われていくものであることから、学んでいく記号と身体感覚とを紐づけていくための一番良い学びの題材だと思う、と古川さんは語ります。
保育園での「食」を通じた学びの実践
古川さんの保育園で大事にされているのは、毎日自分が食べるものを作ることは苦ではない、というくらいに習慣にすること。1歳児クラスなら、測ってもらっ米を洗って炊飯器のスイッチを押すことを週に何度もやっているのだそうです。

そんな風に簡単なことから繰り返し繰り返し何度もやることで、「自分でできる」というところまで習慣にしてあげることが大事。そして、ご飯を炊いて味噌汁を作るくらいなら自分でできるよ、という状態で、高校・大学に送り出してあげられると、その子の人生は安心かなと思う、という古川さんの言葉に、子どもたちの将来を想う多くの参加者が共感し、大きくうなずきました。
最初から最後までやってみる。自分で判断し、振り返ることが大事
古川さんのお話の後半では、ひより保育園での事例をご紹介いただきました。
大学芋を作ったことがない子どもたちに、「作ってみたい!」と言われたら。
子どもたちにどんな声をかけますか?どんな関わりをしようと考えますか?
「どうぞやってみて!」
とだけ言われた子どもたちは、「お醤油の味だよね」「カリッとしているから油で揚げているかもね」などと、過去におやつで食べた大学芋の記憶をたぐり、調味料をちょっとずつ混ぜて味を確認して、見事に大学芋を作り上げたそうです。レシピを教えてもらうことなく!
作り方を教わって作るのではなく、自分たちで試行錯誤しながら最初から最後までやってみると、自分たちで決めた味付けに対して「しょっぱかったから次は塩を減らしてみよう」と振り返る習慣がつく。さらには、他の人が作った料理を食べた時に、「この出汁は、かつお節じゃなくて、シイタケかな?」などと気づく力が高まっていくのだそうです。
「レシピどおりに作るのは、言われた通りに仕事をするのと同じ」という古川さんの言葉に及川は思わずドキッとしました。子どもを信じて任せる、その積み重ねが、子どもの生きる力を伸ばすのだということがよく分かり、子どもに任せる範囲を少しずつ広げて挑戦を応援できるようにしていきたいと感じました。
つながりを取り戻し、多様な環境で学びを豊かに
続いて丑田さんからは、お二人が活動されている「新留小学校」の設立の意味、地域の中での学校のあり方、子どもたちの育ちに必要な環境についてのお話をいただきました。
学校は地域の子どもたちの学びの場であることはもちろん、地域で共有している、ハブのような場所。年間400超の小学校が廃校になっているそうで、学校が無くなってしまうと、そのコミュニティのつながりが薄れてしまったり、地域で受け継がれてきた文化や、自然との関係性が薄れてしまう、といった連鎖が起きているといいます。様々なつながり、文化、自然を、学校を軸にして、もう一度紡ぎなおしていくチャレンジをしている、と丑田さんは穏やかに熱く語ってくださいました。
学校を中心とした半径300m~30kmの中に、子どもも大人も、様々なつながりを持って暮らしています。人が遊んだり学んだりしていく環境をとらえるときには多様な環境について考えることはとても大事なことであると丑田さんは語りを続けます。

人間が安定的な社会関係・信頼関係を維持できるとされる人数の認知的な上限は150人なのだそうです。学校や塾の同級生・先生だけで150人を占めていたとしたら、同質性がとても高いことがイメージできますよね。自分にとって・子どもにとっての150人はどのくらい多様性があるか? ぜひ、ご自身やお子さんの身の回りの関係の多様性について、思いを巡らせてみてください。

そして、関係性を作る際には「あそび(遊び、余白)」も大事なのだそう。
それって意味があること?将来の役に立つ?と考えるのではなく、純粋に楽しく暮らすなかで、夢中になったり、地域の人とつながって仲良くなったりなど、その感覚を大人も一緒にもっていけたらいいのではないか、という投げかけを最後にいただきました。
お二人のお話をうけて、3~4人の少人数チームに分かれて対話をしました。地域の中でのつながり作りをシェアしたり、子どもを信じて任せていきたい、という想いについて対話が盛り上がりました。
===事後アンケートより===
■お二人が作る学校がとても楽しみでワクワクしました。
■自分、家族、関わる人たちの人生の豊かさについて、あらためて考えてみたいと思いました。
■自分で考える、自分で選び取る、自分で判断することができる子どもを育てるために、「やってごらん」を実践したいと思いました。
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今回も、対話をもっと続けたい!と感じるあっという間の1時間でした。古川さん、丑田さん、たくさんの気づきを引き出してくださりありがとうございました。そしてご参加くださいましたみなさん、ご一緒くださいましてありがとうございました。
<今回の「本当の話をしよう」のゲストスピーカーによるトークパートの録画>
https://youtu.be/sCsi7mFOAWc
「おとなの対話の会 本当の話をしよう」は毎月、趣向を変えながらすすめてまいります。次回は2月18日(火)のお昼です。SEL推進協会代表理事 下向依梨さんをお迎えして、「~未来を切り開く力~ 『非認知スキル』ってどう育む?」をテーマに対話を通して考えていきます。
無料でご参加いただけるオンラインのカジュアルな会なので、前回お越しくださったかたも、次が初めてのかたも、ぜひお気軽に立ち寄っていただけましたらうれしいです。ご一緒に、皆さんそれぞれの「本当の話」に耳を傾けあっていきましょう。
<次回2月の「本当の話をしよう」のご案内>
■詳細ご案内はこちら(PDFが開きます)
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及川彩子 Ayako Oikawa(みらいキャンパス)