「自分で自分をデザインする力」を育む
「じぶんづくり」領域では、「『自分軸』を大切にしながら、自分の意思で決定・行動し、自分も相手も尊重しあえる子どもたちを増やしたい」という思いで、子どもたちが「自分らしさ」を見つけ、育てるためのワークショップやコーチングを行っています。経験豊かなコーチ・仲間・自分自身との対話を通して「好き」や「やりたい」に気づき、トクイ・ニガテや成績にとらわれず、自分らしい軸で未来を自由に描ける力や自己決定力、総じて「自分で自分をデザインする力」を楽しく育みます。
今回子どもたちに伴走してくれたのは、小学校教員としての20年のキャリアや自身の子育て経験を生かして多方面でワークショップ・コーチングを展開中の中楯浩太さん。
「自分軸」は決して1回や2回の講座で見えてくるものではなく、時間をかけてじっくり育んでいくものですが、小さい頃に自分について考えるきっかけがあるかないかでは大きく違ってくると思っています。今回は、2023年の夏に実施した講座のハイライトとして、中楯さんの想いの詰まったプログラムの様子をレポートします。中楯さんの、どこまでもあたたかい、子どもに対するまなざしを感じ取っていただけたら幸いです。
~「じぶんづくり」講座が目指すこと~
1.自分の軸となる「自分らしさ」がわかる・見つかる
2.自分の軸をもとに次の学びにつなげる力を伸ばせる
3.自分のことを決定し、チャレンジし、振り返る力が身につく
4.自己肯定感・自己効力感・自己有用感が高まり、自信につながる
■講座名:じぶんなぞときに挑戦!自分発見タイムスリップ(全2回)
■参加者の学年:小学1~3年生
自分が主人公の物語を作ってみる
まずは、みんながよく知る昔話「桃太郎」を題材に、登場人物の「すき、たのしい、うれしい、わくわく」といった感情を探します。「桃が流れてきたとき、おばあさんはどんな気持ちだったと思う?」「桃太郎は、何が好きだったのかな?」そんな風に、思い思いに想像してみます。そのあと、今度は自分が主人公の物語を作ってみよう!ということで、タイムスリップしながら1、2、3年前~小さいころまで遡って当時好きだったものを思い出していきます。タイムマシーンの中を通り抜けるような映像にみんな大盛り上がり。電車、ゲーム、友達、ポケモンカード、プラレール、大事な毛布などなど、たくさん出てきました。1年前と2年前に好きだったものが同じ子、つまりずっと同じものが好きな子もいれば、成長とともにだんだん好きなものが変わってきた子もいました。そういう違いも大切な個性であり、その子だけの歴史なのだなと思うと、感慨深かったです。最後は「とっても小さいころ、すきだったこと(もの・人)は?」という問いに、子どもたちは「さすがにもうわからないよ!!」と叫んでいました(笑)
すると中楯さんは「じゃあ、小さいころからずっと近くで見守ってきてくれたおうちの方に聞いてきてごらん!」と提案。実際におうちの方に聞いてみたら、新たにわかることもたくさんあったようで、その内容を報告してくれる姿がどこか嬉しそうに見えました。
こうやって家族も巻き込んで「あのときはこうだったね。」「こんなものが好きだったね。」と振り返る時間が、とても貴重だなあと感じました。
また、「主人公」のくだりで、中楯さんが「『主人公』ってわかる?」と問いかけたときの、ある子の答えがとても印象的でした。「主人公は、そのお話(の中)で絶対その人がいないといけないって人!その人がいないと話にならない。」と。この先、大人になるにつれて、傷ついたり人生がうまくいかなかったりと、そう思えない日も出てくるかもしれませんが、根底の部分で1人ひとりがそんな風に自分の尊厳を感じながら生きていけたら素敵だなと思った瞬間でした。
好きなものに囲まれる幸せ
身のまわりを振り返って、自分の「好き」を見つめ直します。「自分って、こんなものを大切に思っていたんだ!」「自分は、ステキなものに囲まれているんだ!」と、「宝物」を新発見してほしいという思いで、中楯さんが考えられたプログラム。もともとは「『好き好き風船』を描く」という、「好きなもの」を紙にいっぱい書き出してみるワークだったのですが、わんぱくな参加者の様子を見た中楯さんは「好きなものを紙に書くか、実際に持ってくるか、どっちがいい?」と問いかけます。すると、子どもたちは「家の中から実物を持ってくる」ことを選択。(これも立派な自己決定。もう自分軸が育ちはじめていました。)それぞれ自分の好きなものを家中から引っ張り出してきて、あれもこれもと、次々に紹介してくれます。最後は、なんと「好きなもの」に埋もれてしまう事態に(笑)「好きなものがいっぱいあることにビックリした!次ももっとやりたい!」「時間が足りなかった!全部見せられなくて残念…。ママ、次回まで出しっぱなしにしておいていい?」と懇願している子もいました。目をキラキラさせながら夢中になっている子どもたちと、そんな姿を笑顔で見守りながら「これのどんなところが好きなの?」「いつから集めてるの?」などと嬉しそうに話しかける中楯さん。本当に素敵な光景でした。
「『好きなもの』は変わっていってもいいし、たくさんなくてもいい。ただ、『好きなもの』に囲まれている感覚を小さいうちから感じていてほしい。『確かに好きなもの』がたくさんある。そういう風に世の中をとらえてほしい。」中楯さんのそんな願いが届いているといいなと思います。
相手がいることで深まる自己認識
「好きなもの」についての対話の中で、相手との違いや関係性の中で自己認識が深まっていく場面がありました。
Aくん「車や電車が好き!乗り物が好き!」
中楯さん「じゃあ動くものが好きってことかもね?」
Tくん「ぼくは逆にじっとしてるものが好きだよ。」
中楯さんが、Aくんが答えた具体物をもう少し広い「概念」でとらえて伝えると、「ぼくは~」と、相手の好きなものを知り、そこから自分と比較して自分の「好きなもの」を考えていました。何かを「好き」と感じることも大切ですが、「そうではないもの」に触れたときに自分は「違う」と認識することも同じくらい大切だと思います。「他者の存在によって自己認識が深まる」というのは、まさにこういうことだなと思いました。1人ではなく、みんなで対話しながら、みんなの「好きなもの」を考える。理想の空間ができあがっていました。
満たされると、「やさしさ」や「思いやり」が自然と生まれる
好きなものを見せ合う時間に、「今、僕が(他のものも)つなげて見せちゃうとAくんが見せる時間がなくなっちゃうから、やめておく。」と発言した子がいました。(Tくん)
実はこのTくん、最初は少しご機嫌ななめで、「自分中心」の言動があったのですが、授業が進むにつれてだんだんと柔らかくなり、相手を気遣った言葉をかけられるまでになりました。そんな風に相手を思いやることができたのは、途中でなかなか関心が授業内容に向かないときに、中楯さんがそれを否定したり無理やり授業に集中させたりせず、「たっぷり時間をかけてこの子の話を聞いていた」ということが大きかったように思います。最後の振り返りで中楯さんは、「もしこの子に制限がかかっていたらこの気持ちは湧かなかったかも。満たされることではじめて相手を満たせるんだよね。」とおっしゃっていました。「人に優しくしなさい」「相手のことを思いやりなさい」そんな言葉は必要ありませんでした。「受け止めてもらえた」という実感が、自然と相手を受け止めることにつながっている様子を見て、胸が熱くなりました。「好きなもの」に囲まれた空間と、中楯さんや子どもたち同士のやり取りが本当に素敵な授業でした。
「人生100年時代 。自分のことを知って、自分のことを好きになって、自分の人生がワクワクするような学びを! そして、自分らしくWell-Beingな人生を!」
これが中楯さんからのメッセージです。
これからの学校生活やこの先の未来で、世界に飛び出してたくさんのものに出会っていく子どもたち。どうか「自分らしさ」を大切にしていってほしいと願っています。そして、同時に私たち大人も「自分軸」を大切にした生き方をしていかなければいけないなと改めて思いました。大人も子どもも、みんなが自分らしく輝ける素敵な社会になりますように。
【公式】みらいキャンパス | ベネッセコーポレーション (benesse.co.jp)
Written by 「じぶんづくり」講座開発プロデューサー 伊藤里紗