世界には、まだ誰も知らないことがいっぱいある。~サンゴ研究から学ぶ「ものの見方・考え方」~

みらいキャンパス物語
2024.02.22

2023年夏に実施した究極の探究プログラム第2弾「サンゴの記憶を読み解く!博士と探究プロジェクト」。今回の講師は「100年後に残す」をテーマに、喜界島でサンゴ礁研究をベースにした教育・発信活動に積極的に取り組まれている渡邊剛博士。(北海道大学大学院理学研究院 講師、喜界島サンゴ礁科学研究所 理事長) 海で拾ったことはあるけれど「サンゴって何?」と聞かれるとよくわからない…というなんとも不思議な存在である「サンゴ」について、ホンモノの博士との贅沢な対話の中で子どもたち一人ひとりの好奇心・探究心に火がついていった様子をお伝えします!

■サンゴの記憶を読み解く!博士と探究プロジェクト
■参加者の学年:小学3~6年生 全4回

サンゴとは、なんでしょう?

渡邊博士の講義は、インパクトのあるサンゴの産卵シーンの動画からスタートしました。
「さて、サンゴとはなんでしょう? 1. 動物 2. 植物 3. 鉱物」
意見は割れ、それぞれに手が上がりました。
ところが、博士は「答えは言いません。キミたちより少しは長くサンゴのことを調べているから、わかったことは伝えるけどね。」と宣言。なんと…!(笑)でもこれが、渡邊博士の一貫したスタンスでした。
「ぼくは30年サンゴの研究をやっているけれど、『サンゴのことを最も知らない人』って言っています。」と。その謙虚な研究者としての姿勢や、これだけ人生をサンゴ研究に捧げているような、その道の博士でも「わからない」ことがあるということ、また、必ずしもすべての「問い」に答えがあるわけではなく、自分で探究して見つけていくものだということが今回の講座を通して、子どもたちに伝わったように思います。結局サンゴは、動物とも植物とも、鉱物とも言えるのですが、渡邊博士は最初から答えを言ってしまうのではなく、子どもたちが自分の頭で考えられるような興味深い研究資料をたくさん見せながら、情熱をもって話してくださっていました。そこには、博士が画面越しに見せてくださる写真や資料、実物のサンゴを食い入るように見つめる子どもたちの姿がありました。

▲Photo by 喜界島サンゴ礁科学研究所

疑問に思う力。「良い問い」を立てられる力。

探究にとって欠かせない、言わば原点とも言える「問い」。
博士との対話の中で、様々な「問い」が生まれていきます。

・サンゴの年齢(444年生きてる)ってどうやって調べるの?
・サンゴは最大で(水深)何メートルのところまで生息しているの?
・やわらかいサンゴが硬くなることはある?
・サンゴの色はどうやってついているの?
・調べるときに、どうやって海の中にマークを付けるの?
・博士がサンゴに興味を持ったのはなぜ?

気になりどころは人それぞれ。そして、大人でも「確かに…」となるような良い「問い」ばかり。博士からの「めちゃくちゃいい質問ですね!」という言葉に、みんな嬉しそうでした。
他の誰でもなく、ホンモノの博士に認められる経験や博士から掛けてもらえる言葉の価値は、子どもたちにとってとても大きかったようです。
そんな風に、博士の話を聞いて「なぜ?」と思ったこと、気になったことや考えたことを博士にぶつけてみる。博士と対話しながら、仲間の意見も聞いて新たな探究のヒントをもらい、別の視点でまた調べてみる。これを繰り返すことで、「問い」がまた次の「問い」につながっていきます。

▲喜界島の444歳を超える「ハマサンゴ」-Photo by 喜界島サンゴ礁科学研究所

みんなで探究!仲間の疑問が研究テーマに。

今回参加してくれた子どもたちはみんな「マイサンゴ」を持っていて、もともと少しサンゴに興味があったようでした。ただ「サンゴ」というテーマは、目に見えるし触れられるにもかかわらず「深める」となると少し難しく、なかなか一人では探究が進まない子も…
そんな時に、探究を楽しく進めてくださったのが、ミラツクのファシリテーター、石橋(ばっしー)さんでした。石橋さんが醸し出す明るくてやわらかい雰囲気と、「気になったことはどんなことでも言っていいんだよ」という安心・安全の場に、はじめは緊張していた子たちもだんだんと発言が増えていきました。それぞれが持ってきたサンゴを、購入した「喜界島のサンゴ図鑑」で探しながら「これじゃない?」と見せてくれる子が出てきたり、探究の中間発表に対して、お互いが質問をプレゼントし合う場面もあったり。

また、博士との対話も仲間がいることによって広がりを見せていました。
とある子(Mくん)の「サンゴって他の海の生物に襲われたりしないんですか?」という質問をきっかけに、サンゴを襲うヒトデ、魚がいることやサンゴ同士でも攻撃し合う場合があることがわかり、それを聞いた別の子(Yくん)が今度は「サンゴ同士の戦い」について興味を持ち調べはじめました。
こういったことがみんなで探究することの醍醐味だなと思いました。

ミラツクのファシリテーター石橋さん

「強さ」とは何か。「見方を変える」とは何か。

「サンゴ同士の強さを比べたい!」というYくん。
「じゃあどうやって比べよう?まずは『強さ』って何?強いってどういうこと?」博士からの「問い」でした。

「今弱いサンゴのほうが長く生き残るかもしれないし、その方が後の時代には強いって言われるかもしれないよね。弱い方がいろんな環境に住めるように頑張るかもしれないし、弱かったら一生懸命考えて、頭が良くなって違う方法で勝つかもしれない。弱くて折れてしまったら、運ばれたところでまた新たに成長するかもしれない。だからその場でけんかして強いやつが強いとは限らなくて、長い目で見たときに生き残ることがサンゴの強さなのかもしれないね。」

博士からそう言われ、みんな「強いサンゴ」の条件について考えていました。
Yくんは、はじめは「強さ」とは「サンゴが敵に覆い被さる速さ」だと考え「最も成長速度が速いサンゴ」を調べていましたが、探究していく中で逆に「最も成長速度が遅いサンゴ」の方が長い目で見たときに強いのではないか?と考えるようになり、探究テーマをシフトしていました。
一方、Mくんは、「逃げられること」が強さのポイントなのではないかと考え、「クサビライシ」という「移動するサンゴ」について調べていました。

最後の発表の際に博士は、「正解がない問いでも、それぞれが『強さ』について考えてみてくれたことがうれしいし、その感度がすばらしい。サンゴから学んだことを、これから生きていく上でほかのことを考えるときにも役立てられそうだよね。大人になると物事を決めつけてしまいがちだけれど、1つのことも見方を変えると、また違う真実が見えてくるんじゃない?」と、研究から応用できる「ものの見方や考え方」について触れてくださっていました。きっとこの子たちの今後の人生に大きなヒントを与えてくれる言葉になるだろうなと思います。

大事なのはまだわかってないってことが、わかっていること。これが出発点。

最終回の4回目で、子どもたちは自分が興味を持ったことをそれぞれ発表しました。サンゴを食べる生物、サンゴの色、最も成長速度が遅いサンゴ、サンゴの硬さなどなど…。
子どもたちが気になって調べたテーマは、まさに今、研究者の方々も注目して調べている内容だそうで、博士から「ぜひ一緒に調べてほしい。一緒に研究しましょう。」と早速オファーをもらっていました(笑)
また、発表の中で「○○についてはまだわかっていない」と言った子がいたのですが、博士は「大事なのはまだわかってないってことが、わかっていること。これが出発点なんだよ。」とおっしゃっていました。

一人ひとり博士から講評と修了証をもらい、講座は終了。
不思議に思う感性がすごい。よく調べられているね。自分の力で考えることが大事。」
「一見考えないようなところに注目して深く掘ったのがすごい。まさに研究者は、誰もが思うところではなく自分しか疑問に思えないようなところを攻めていく。そうすることによって世界で初めての発見につながったりするよ。」
「研究者って知識だけじゃなくて、自分の五感を使って得た感覚もとても大事なんだよ。」
などと探究のヒントをたくさんもらっていました。
中には、「喜界島には船で行けますか?」と質問する子も。実際に自分の目で見たくなったり、行ってみたくなったりするのは、素敵だなと思いました。

そうやってそれぞれの入り口からサンゴに興味を持った子どもたち。
最後には「サンゴのために何ができますか?」という「問い」を投げかけた子がいて、みんなで考えていました。誰に教え込まれるでもなく、子どもたちの中にサンゴをはじめとする地球環境を守りたいという気持ちが自然と生まれていたことに感動しました。
また、「サンゴ」というテーマそのものはもちろんのこと、渡邊博士に出会えたことで、生きていく上で大切な、新しいものの見方や考え方を得られたのではないでしょうか。

探究には時間がかかります。たとえ一度火がついても、ずっと続くものではないかもしれません。でも何かの折にまた興味をもって、いつかサンゴの研究者になる子が現れるかもしれません。小さな探究心がこれからじっくり育っていくのだと信じています。
サンゴの強さと同じく、子どもたちの成長を「長い目で見る」ことの大切さを改めて感じた貴重な4日間でした。

■NPO法人ミラツク
https://emerging-future.org/
■株式会社エッセンス
https://esse-sense.com/

Written by 「サンゴ」の講座開発プロデューサー 伊藤里紗

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