不登校の子どもたちの変容 岡山県総合教育センターとの取り組みから
7月半ば、「みらいキャンパス」は、岡山県総合教育センターが運営している不登校生の集まる場「まんまリンク」でレッスンを提供しました。「まんまリンク」は、ovice(オヴィス)という仮想空間で、訪れた子どもたちが、月数回のイベントに参加したり、スタッフと対話をしたりする場です。今回は、この仮想空間に、みらいキャンパス講師の織田尭(おだ・たかし)氏(おだっち)が登場し、1回完結60分のアートの講座「マイ神様をかいてみよう」を提供しました。不登校の子どもたちが集まる場へのレッスンの提供は「みらいキャンパス」として初めて。今回は、その様子を学び開発ディレクターの高田七生がレポートします。
講師おだっちの優しい語り口と興味をひきだす問いで生まれた安心の場
普段、カメラはOFFで、チャットでのやりとりが多い子どもたち。レッスン開始直前、「楽しみ~」「描けるかな」などのチャットを通して、子どもたちの「ワクワク」が伝わってきます。
おだっちからの「絵を描くのが好きな人、手をあげて」(oviceでは、ボタンで挙手のリアクションをすることができます)、「どんな絵を描くのが好きかよかったらチャットで教えて」という声掛けからレッスンがスタートしました。
「神様っていると思う?」「神様ってひとりだと思う?たくさんだと思う?」誰も正解を持っていない、何を答えてもまちがいではない質問を重ねながら、レッスンは進みます。リアクションボタンで手をあげてもらったり、チャットのコメントひとつひとつを受け止めたりしながら、おだっちが古今東西の神様をおもしろおかしく紹介します。岡山県総合教育センターのスタッフ「ロビンソン」さんの合いの手も入り「なるほど、たしかに~」「いいですね、いいですね」と盛り上がります。こうして、どんな発言をしても受け止めてもらえる安心安全の空気感が生まれ、場を包み込みました。
だんだん心が溶けてくる、作品を見せたくなってくる
おだっちの話を聞いたり、様々な神様の絵や芸術作品、オブジェなどを見たりしながら、子どもたちの想像がムクムクと膨らんできたところで、いよいよ自分の神様を描き始めます。
数分後、Aさんから「絵を見せたいけどやりかたがわからない」とチャットが入ります。実は、これまでの「まんまリンク」での子どもたちの様子から、「作品を見せてもらうのは難しいかもしれない」と考えていた、おだっちと運営スタッフはドキリとします。
さらにBさんから、「見せたいけどはずかしい」とチャットが入ります。カメラOFFのまま、自分の神様の絵をチャットで説明するBさん。その全てに、おだっちは丁寧にコメントや質問を返します。やりとりの中で、Bさんの「作品を見せたい」気持ちはぐんぐん膨らんできます。「見せたい、でもうまく見せられない」というやりとりが続き、「子どもたちの、見てほしい、受け止めてほしい」という気持ちの揺れが、おだっちや、運営スタッフにも伝わってきました。
おとなたちが、グッときた瞬間でした。
「見てほしい」「聞いてほしい」が生まれる場
不登校の子どもたちの中には、他者とのかかわりに強い不安やストレスを感じた経験のある子どももいます。安心できる環境の中での「自分のままでいいんだ」という経験は、自己肯定感が回復・向上し、心の安定や成長が促され、次への一歩を踏み出す勇気につながります。「まんまリンク」の子どもたちはこうした環境の中で少しずつ力をためてきており、60 分という短い時間の中での新しいチャレンジでしたが、「自分の作品を見てほしい」、「自分の話を聞いてほしい」、「自分に関わってほしい」という気持ちへつながったのだと感じました。
また、子どもたちの気持ちを引き出し、受け止めることができた今回の取組で、不登校の子どもたちに対して、私たち「みらいキャンパス」ができることの可能性を確かに感じることができました。
岡山県総合教育センターの運営スタッフの皆様からは「子どもたちは講師とのつながりを感じられたようにみえた」「自分で描いたものを見せようとしていたのは、気持ちが前向きになっていた表れだと思う」、保護者のかたからは「自分から作品を見せようとして驚いた」との嬉しいご感想もいただきました。
不登校の子どもたちを、周囲の大人が皆で見守り受け止めたことで、ひとつの自己開示、自己表現の場となった今回の取り組み。ここを出発点に、これからも、不登校の子どもたちに向けた学びの場の提供、さまざまなおとなから刺激を受けられる機会の提供を考えていきたいと思います。これからの「みらいキャンパス」にますますご期待ください。
高田七生 Nanao Takata (みらいキャンパス 学び開発ディレクター)