【学校支援事例】シブヤ未来科 探究活動支援~渋谷区立富谷小学校での7か月間~

ベネッセコーポレーション「未来の学びプロジェクト」は、渋谷区立富谷小学校にて、「エコ」をテーマとする探究活動の伴走支援をしました。今回は、本プロジェクトをメインで担当した学び開発ディレクターの髙田と、Learning Experience デザイナーの齋藤にインタビューしました。
高田七生
(ひとりひとりの「好きやトクイ」を見つけて伸ばす学び開発ディレクター)
世の中のおとなみんなが安心して子どもの「好き」「夢中」を信じて守れる世の中にしたいと思っています。

齋藤颯
(講師と学習者を結び付け、唯一無二の化学反応を起こし続けるLearning Experience デザイナー)
子どもの頃は学校の勉強が嫌いだったので、学校の先生になって教育を内側から変えたいと思っていました。今は学校という枠組みにとらわれず、社会全体で子どもを育てていくような世界観を作りたいと思っています。

ベネッセ 未来の学びプロジェクトが、渋谷区立富谷小学校にて、探究活動を伴走支援
「シブヤ未来科」とは、東京都渋谷区の全区立小中学校で、月曜日から金曜日の午後の授業を探究学習に充てるというもので、総合的な学習の時間を充実させる試みです。ーーこれは、文部科学省の「授業時数特例校制度」を利用し、従来の時間数を年間70時間から150時間に拡大するというもの。渋谷区は、地域や企業との連携による先生方の負担軽減なども検討しており、この度、未来の学びプロジェクトが手を上げ、学校支援が始まりました。6月には学校を訪問し、先生方の課題意識、児童の様子、4月からの実施状況をお伺いし、富谷小の探究活動のねらいを重視した伴走型の支援をスタートしました。
まずは先生方と信頼関係を作りながら、先生方のお困りごとに応えていく
ーー併走支援とはどのようなことをされたのでしょうか?
髙田
まずは先生方へのヒアリングや授業見学、学校内研究会などに参加するところから始まりました。そして、「エコ」という大きなテーマを受けて、どうしたら楽しく活動ができて、探究できそうかという切り口のご提案をさせていただきました。
ご提案といっても、ベネッセが全て決めて「これでいきましょう」というよりは、「エコというテーマだったらこんなやり方があるのではないでしょうか」といった案を複数お持ちして、先生方からご意見をいただき、ブラッシュアップするというのを繰り返すイメージですね。
先生方も試行錯誤しながらやってこられた積み上げがあるので、これまでやってきて困っていることや、うまくいかないことを伺いながら、「でしたらこのようなものを使ってはどうですか?」「このタイミングでこんなことをしてみたらどうですか?」といったふうに対話を重ねることを大切にしました。未来の学びプロジェクトは、「みらいキャンパス」(未来の学びプロジェクト発のオンライン対話型ライブレッスンサービス)で、多くの子どもたちの探究的な学びを支援してきたので、その経験も踏まえてご提案させていただきました。
ーー先生方はどんなことにお困りでしたか?
高田
特に、探究について「子どもたちの活動を支援するだけでなく、評価することに難しさを感じている」といったお声をいただきました。「まとめ・表現」のステップを大切にしたいとご要望をいただいたのも踏まえ、まとめ・表現において抑えるべきポイントを整理したり、指導するときに使えそうなアクティビティやワークシートをご提案したりしました。指導と評価はセットなので、評価のポイントだけではなく、指導の仕方について、先生方からフィードバックをいただいて作っていきました。
先生方との対話を通して一緒に授業を作っていく
髙田
先生方との関わり方が変わったのが印象的です。先生方は誰よりも子どもたちのことを考えて毎日向き合っています。そこでいきなりベネッセが現れたら、「大切な子どもたちをこの人たちに任せて大丈夫なのだろうか」「自分がやりたいことを邪魔されるのではないか」と、不安に思われるのは当然だと思います。
だからこそ、先生方のご意向を尊重しながら対話を重ねていったのですが、回数を重ねるにつれ、信頼してもらえるようになったと感じます。先生方から「ここがうまくいっていない」といった悩みや課題を教えてくれるようになりました。そういったお声をいただいてからは、「こんなことを考えてみたのですが、いかがでしょう?」と案をお持ちして、また対話を重ねて…と、一緒に作っていく感覚を得られたのは大きな変化でした。
齋藤
たしかに、我々起点の提案型のコミュニケーションから、先生方の課題意識起点の解決型のコミュニケーションに変わっていきましたよね。
たとえば、先生から「どの子も探究のステップをふみながら最後の発表までたどり着いているものの、1人ひとりがその過程で何を感じ、何を考えていたのか把握しきれていない」ということを課題視していると聞いたので、今日やったことや今日感じたことを残せるワークシートを作り、毎回小さな振り返りを文字で残すことを提案しました。そうしたことで先生方が子どもたちの学びを把握できるようになっただけでなく、子どもたちにとっても学びや気づきが積み上がる感覚が芽生え、3か月におよぶ探究の最終発表の際に、「はじめの頃の自分は何を考えていたんだっけ」と、思い出す手がかりになっているようでした。
ベネッセ独自のミニレッスン「探究とは何か」
齋藤
一番最初に、「そもそも探究とは何か」というミニレッスンを僕がゲストティーチャーとして実施しました。子どもたちは、4月から「国際人を目指して」、「みんな幸せプロジェクト」という2つのテーマで探究を経験していましたが、「探究のプロセスを俯瞰で捉えるような機会がこれまでなかった」ということでした。そこで、この後のエコ探究を見通しを持って進められるように、探究のプロセスを俯瞰で捉えながら、各ステップで意識すべき重要なポイントを子どもたちと一緒に考えるというミニレッスンを実施しました。
そのとき題材として「みらいキャンパス」の講座のなかで子どもたちに大人気の「なんじゃこりゃ計算(「1+1=田んぼの田」のような計算」と、算数の授業で扱う「ふつうの計算」の比較を取り入れるなど、「みらいキャンパス」の知見をフル活用しています。

髙田
はじめの一歩は、一言でいうと「その世界のことを知る」ということですね。今回であればエコですが、エコといってもかなり広いので、エコの世界を知り、自分はどんなエコに興味を持つのか?を考えていきます。たとえば、世界規模の二酸化炭素排出量について気になる子もいれば、「学校の落とし物」のような身近なことに関心を持つ子もいます。
今回は、このはじめの一歩の時間をしっかり取ったことによって、「これがやりたい!」と飛びつくのではなく、途中で興味が変わったり行き詰ったりするプロセスも踏まえて、「本当に探究したいこと」を見つけてもらえたと思います。
ベネッセ未来の学びプロジェクトだからこそキャスティングできるゲストティーチャー
ー今回、ゲストティーチャーのキャスティング・アテンドをしたと伺っていますが、先生方の反応はいかがでしたか?
髙田
「すごく助かります」というお声をいただきました。ゲストを呼ぶとなると、テーマにふさわしいゲストを探し、学校の予定と授業の進行を調整しながらアポを取り、当日はご案内し…と、やることがたくさんあります。何度も学校への訪問を重ねるなかで、先生方だけでゲストを呼ぶのは本当に大変なんだろうなと実感しました。
実際にやってみての感想ですが、「ゲストティーチャーが子どもたちを受け止めるのが上手」という点は、未来の学びプロジェクトならではだと思いました。ゲストティーチャーは、未来の学びプロジェクトが提供する「みらいキャンパス」という少人数対話型のオンラインレッスンで講師を務める方々です。みらいキャンパスが「対話型」を重視しているからこそ、そこで活躍される講師の方々は、子どもたちの発言や考えを受け止めるのが上手なんです。ゲストというと、講義形式で子どもたちにインプットを提供するケースもありますが、それだけではなく、子どもたちの探究のアウトプットに対して、対話をしながらより深めていくという光景があったのが印象的でした。
現場に入り込んだからこそ感じたこと
髙田
とにかく勉強になりました。現場に入って先生方や子どもたちとやりとりをしながら授業を作ること自体、私たちも一緒に探究をしているような感覚でした。
齋藤
未来の学びプロジェクトの発起人である小林前社長から「ベネッセの中心事業である「教育」と「介護」は現場がある仕事。現場で何が起きているのかしっかり見てきなさい」と言われていました。実際に現場に入り込むと、シブヤ未来科が始まって初めての年ということで戸惑いながらも、日々試行錯誤して子どもたちの探究を支援する先生方がいらっしゃいました。今回の取り組みのなかで、実践の振り返りを高頻度で実施しました。我々が、先生方の支援によって子どもが深い学びに到達していることをみとり、お伝えすることで、先生方の自信につながっているようなシーンも度々ありました。探究による子どもの成長はテストの点数のように簡単に測定できないからこそ、先生方を孤立させない仕組みや、よい取り組みを褒め合う仕組みが重要なのではないかと思いました。