
ベネッセコーポレーション「未来の学びプロジェクト」は、東京立正高等学校にて、みらいキャンパスの講座を実施しました。今回は、開発リーダーの岩﨑に、実施の背景や様子を聞いていきます。
岩﨑 裕佳
高等学校向け教材・サービスを提供する部門で営業やサービス設計を担当。学力だけではない資質能力を伸ばす重要性を踏まえ、高校生にもキャリアを考える機会を提供したいという思いから、未来の学びプロジェクトに参画。高校生向けの講座開発を担当している。
気になる講座を自分で選ぶ。オンライン×リアルのハイブリッド形式
ー今回の取り組みの概要を教えてください
東京立正高等学校の高校1年生を対象に、みらいキャンパスの講座を実施しました。土曜日の総合的な探究の時間を2コマいただき、2週にわたって実施しました。教室にいる生徒に講師はオンラインで対話するという形式で実施しました。
講座は全部で5つ用意し、生徒自身に好きなものを選んでもらいました。お金との付き合い方がテーマのものや、デザイナーとSNSアイコンを作るもの、ロッテの社員のかたから新商品の開発について学ぶものなど、普段の授業ではあまり触れないテーマを用意しました。
ー生徒自身で好きな講座を選ぶんですね。1講座の人数にバラつきは出ましたか?
お金がテーマの講座が特に人気で、全生徒300名くらいのうち、80名くらいがこの講座を選びました。偏りが出たものの、人数調整はせず実施しました。というのも、少しでも気になるものを自分で選ぶという体験を大切にしていますし、「人数が多いからあなたはこっちね」と、興味がない講座に割り当てられると、やる気を失ってしまうともったいないですからね。
【実施した講座】
・キミの本当の気持ちを受け止めよう!自分発見ワーク
・なりたい姿・やりたいことを実現するためのお金との上手な付き合い方
・一級建築士といっしょに、「理想の家」を図面にしよう
・デザインの考え方を学んでつくろう 自分だけのSNSアイコン
・ロッテから学ぶ お菓子の新商品を開発する方法
1クラスは通常30人くらいですが、今回は空き教室も使って1クラス20人くらいの規模にしました。クラス内は、4人1組のグループに分かれるかたちで実施しました。

「意欲に火を付ける」。講座設計のこだわりとは?
ー講座の内容はどのように検討しましたか?
まずは、学校の先生方にヒアリングをするところから始まりました。先生方が普段課題に感じていることや、困っていること、生徒の様子を把握したうえで内容を検討しました。途中経過についても先生方のご意見を伺いましたが、負担をかけすぎてはいけないので、適度な頻度でコミュニケーションを取って進めました。
具体的な内容については、みらいキャンパスが独自で作った講座設計フォーマットがあるので、それに沿って講座担当(ベネッセ社員)と講師が検討しました。講座設計フォーマットは、「どんな問いを投げかけるのか」 「学習のゴールは何か」といった枠組みが記載されているイメージです。
また、全体を統括するリーダーが、5講座それぞれについてご相談しながらブラッシュアップしました。特に、レッスンの難易度調整を丁寧に行いました。アクティビティのレベルが高過ぎるのではないか、2コマとしてはボリュームが多いのではないか、といったご相談を重ね、内容を決定していきました。11月から検討を始めたので、2月の実施まで4か月ほどかかりましたね。
ー今回の取り組みで特にこだわったことはありますか?
2コマ(100分)で何か大きな変化を生むのは難しいので、「意欲に火を付ける」ことを一番大切にしていました。たとえば「建築に興味がわいた」 「商品開発の仕事をもっと知りたい」といったように、この先の探究活動やキャリアを考えることにつながっていくような講座にすることを意識しました。
また、高校生の興味を50分間保ち続けるのは容易ではありません。飽きさせない工夫が重要なので、アクティビティを多く入れたり、講師と生徒、生徒同士でコミュニケーションを取り合ったりといったことを設計しました。1つのことを長時間取り組むと集中力が続かなくなるので、特にアクティビティは時間を区切ってテンポよく進める工夫をしましたね。
その道のプロの講師と出会う価値。学校の先生が見つけた探究のヒント。
ー生徒の反応はいかがでしたか?
生徒に感想を聞くと、「外部の先生との経験が新鮮で楽しかった」 「クラスをシャッフルするので普段関わらない人とディスカッションするのが新鮮だった」という声が出ました。
たとえば、デザイナーの講師とアイコン画像を作る講座では、PCを使って生徒それぞれ好きな絵を描き、それを講師がPhotoshopでイラストにしてくれます。そのとき、生徒をお客さんに見立てて、講師が「デザイナーとしては、ここはこの色を使ったほうが素敵だと思うのですが、いかがでしょう?」といったように、プロのデザイナーとしての仕事のリアルを見せてくれました。こうした機会は普段あまりないということで、喜んでいる生徒が多かったですね。
一級建築士と理想の家の図面を考える講座では、新聞紙を丸めてドームを作るアクティビティをやりながら、「四角形よりも三角形のほうが強度がある」といった建築の基本を学びました。座っているだけではなく、手を動かすのが楽しかったようで、生徒たちはすごく盛り上がっていました。
一番印象的だったのは、自分発見講座を受講し「美容師になることを諦めていたけれど、やっぱり目指そうと思った!」と教えてくれた生徒がいたことです。自分軸コーチの講師である中楯さんの話を聞き、自分と向き合った結果、「やっぱりやってみたい!」という気持ちが沸々と湧き上がった様子でした。先生方から「SNSや周りを気にする生徒が多い」とお伺いしていたので、生徒が自分発見講座を受講することで自分と向き合い、奮起した姿を見ることができ、とても嬉しかったです。

ー学校の先生の反応はいかがでしたか?
先生からは、グループワークに取り組んだり、意見交換をしたりといった活動がすごくよかったという感想をいただきました。講座を作り始める前から、「これまでとは違うものも取り入れて、自分で考えて手を動かす体験をさせたい」というご要望をいただいたのもあり、アクティビティを工夫した甲斐がありました。また、講師と生徒の会話を通して、探究の時間のなかでどんな声をかければよいのか、どう深掘りをすればよいのかといったヒントを見つけられたというお声もいただいています。5講座のなかから自分で好きなものを選ぶという体験をさせてあげられたこと自体に価値を感じていただいている先生もいました。
みらいキャンパスの学びを学校教育のなかでやることの意味
ー今回の取り組みを終えて、担当者としてはいかがでしたか?
みらいキャンパスは、これまで小学生向けに講座を提供してきました。私自身講座担当も経験しましたが、プロの講師との出会いは子どもたちにとって本当に素晴らしい経験になると感じました。一方で、ごく一部の子どもたちにしか届いていないのがもったいないなという気持ちもありました。だからこそ、みらいキャンパスの学びを学校教育のなかでやることの意味を強く感じています。そして、それは学校とのつながりを構築してきたベネッセだからこそ実現できるとも思っています。これからも、多彩なバックグラウンドを持ち、子どもたちの思いを受けとめ、興味・好奇心を引き出すことに長けている講師のかたがたのお力をいただきながら、いろいろな挑戦をしていきたいです。