2025年6月、未来の学びプロジェクトは岡山県立林野高等学校に「自分発見講座」を提供しました。今回は、開発リーダーの岩﨑に、実施の背景や様子をインタビューしました。 

探究の出発点は「自分を知ること」から 

― 岡山県立林野高等学校にみらいキャンパスの「自分発見講座」を提供することになった背景を教えてください。 

林野高等学校では、独自の探究学習プログラム MDP(My Dream Project) を展開しています。地域と連携しながら「探究する力」と「キャリアを考える力」を育む取り組みですが、先生方からは「生徒たちに探究をもっと自分ごととして捉えてほしい」という課題意識が寄せられていました。
事前の先生ヒアリングでも「自己理解のプロセスにより力を入れたい」という声がありました。日常の探究学習につながるように、生徒が自分の興味を深め、没頭できる課題を見つけてほしい。自分がやりたいことに気づき、それを仲間と共有できるようになってほしい。そのようなニーズがありました。
そこで、みらいキャンパスでも「自分軸」を育てる講座を多数行っている中楯浩太講師にご協力いただき、林野高等学校にて「自分発見講座」を実施することになりました。生徒が自分自身に目を向け、探究学習をより自分ごととして歩み出すことを期待しての導入でした。

▼中楯浩太講師 

「自分軸」を育てるワークショップや教師を支えるコーチングやカウンセリングを行っている、元小学校教員で、3児の父でもある講師。老若男女問わず、対話しながら、楽しく・優しく「その人らしさ」を引き出す、心理的安全な場づくりのプロフェッショナル。

事前・当日・事後をつなぐ「自己理解のサイクル」 

― 具体的にはどのような内容・形式で実施したのですか?工夫したことも交えて教えてください。 

一番の工夫は、「学校」という場に授業を提供することを意識し、事前・事後も含めた活動設計にしたことです。当日に向けた意識を高め、終了後は振り返りができるよう、授業の前後に取り組めるワークシートを用意し、学校に提供しました。 
具体的には、事前ワークとして、自分の人生を振り返る「ライフラインチャート」や、出来事を思い出すことで、そのときの感情に気づく「感情を知るワーク」を準備しました。当日の授業では「自分がやりたいこと」のベースとなる「好き」や「幸せ」について考え対話しますが、いきなり「何が好き?」と聞かれても答えにくい生徒もいます。そこで事前のワークを通じて、自分の気持ちに目を向ける準備を整えるとともに、中楯講師からのメッセージを添えて「授業が楽しみだ」と感じてもらえるよう工夫しました。 
当日の授業は、Zoomを使って各教室と中楯講師をつなぐオンライン形式で実施。生徒たちが自分の好きや感情、幸せと向き合う大切さを実感できるよう、チャットやアンケートツールを使い、リアルタイムでのやり取りやアクティビティを取り入れました。双方向でのやり取りを取り入れることで、オンラインでも興味関心をひきつけ、集中力を持続して学べる時間になったと思います。 
事後には、授業で得た学びを振り返り、日常生活や行動につなげるためのワークシートを用意しました。“幸せの価値観”をベースに「やってみたいこと」を具体的に書き出し、未来に向けて小さな一歩を踏み出せるよう後押ししています。 
ちなみに、授業前後で使えるワークシートを準備することは、生徒の自己理解の後押しを高めるだけはなく、学校での使いやすさの面を考えての工夫でもありました。実際に林野高等学校では、1年生は授業で、2年生は宿題として配布する形でワークシートを活用してくださいました。各学年の実態に合わせて使っていただけたことがよかったと思います。 

▼事前ワークの最初のページに入れたメッセージ 

▼当日のワークの様子 

アンケートと声から見える自己理解の深まり 

― 実際に実施してみて、生徒の反応はいかがでしたか? 

とてもうれしかったのは、「自己理解」というテーマが生徒の心に届いたことが、数字と声の両方から伝わってきたことです。
生徒には授業の前後で同じ項目のアンケートを実施しました。高校1年生・2年生ともに、
「自分自身に満足している(自己受容)」
「自分がどんな人かを認識している(自己理解)」
「社会の問題や出来事に興味がある(社会への関心)」

という3つの観点で大きな伸びが見られました。

▼高校1年生の事前事後アンケート結果の比較 
9項目すべてが伸びましたが、上記3つの観点は、15ポイント以上の伸びがみられました 

生徒からは、 
「自分について考えるきっかけになった。進路選択にも役立つと思った」 
「今日みたいに自分の感情を客観視することについて、もっと知りたいと思った」 
といった声が寄せられました。 
また先生方からは、 
「今回のように、自分を知る機会を設けて考えさせることは良いと思った」 
「学校の先生以外のおとなの話を聞くことも、生徒にとって大事だと感じた」 
といった感想がありました。 

未来への一歩を支えるために 

― 最後に、今回の取り組みを通じて感じたことをお願いします。 

講座では、生徒たちが学校の外で活躍する大人と直接交流する貴重な機会となりました。普段はなかなか出会うことのない社会人との対話に、生徒たちは新鮮な気持ちで耳を傾け、質問を投げかける姿が見られました。
「学習への動機付けが難しい」「学びを自分ごととして捉えられない」という課題は、多くの高校で共通して聞かれるものです。今回の「自分発見講座」が、生徒一人ひとりが自身の未来を主体的に考え、日々の探究学習に興味と当事者意識を持って取り組む一歩となることを願っています。 

インタビュアー&原稿執筆  長原典子