2023年から2024年を紡ぎ、2030、2040、2050年の未来を「対話」と「創造性」で拓く
変化のスピードが速く、混沌とした「いま」が、明るい未来にどのようにつながっていくのか。未来の学びプロジェクト・みらいキャンパス総合責任者の城座がこの1年を振り返り、新しい年につなげます。
時代の大きな流れをつかむ
コロナが5類に移行し、生成AIが急速に普及、世界で起こる哀しい戦争の影響もあり、円安や物価高が起こって、2023年の日本経済や日々の生活は混沌としました。一方、コロナの影響が落ち着き、街に人の活気が戻り、おとなも子どもも、あらためて人と触れ合う喜びを感じた人も多いのではないでしょうか。時代はこうして、めまぐるしく移り変わりながら速いスピードで進んでいくのでしょう。
時代の荒波の中で、その大きな流れをみて、その全体観をつかみ、本質的に必要なものはなにか。新しい年に、何を意識して生き、生活に、教育に、社会に、どのような新しい文脈を紡いでいくことが、日本や世界の平和と、明るい未来の発展につながるのか、大人である私たちは黙考し、語りあい、気づいていくべきでしょう。
大人、子どもの分け隔てなく、その一部はわかりやすく噛み砕いて、子どもたちにも問うてその考えを聴いていくとよいでしょう。大人も子どもも、ひとりひとりが、この時代の濁流にどのような一石を投じるのか。その一石が、全体の流れを少しずつ変え、新しい流れを創り、良い方向へも、悪い方向へも時代の流れを誘う(いざなう)ことができるからです。
「ひとつの型」や「一本軸のルール」ではもう世界は動かせない
小中学生の不登校生数が過去最多の29万を超えたというニュースが10月に流れ、私自身の周りにいる、東京の子どもたちの様子をみても、「これまでの教育の型」におさまりきらない子どもが増えていることを痛感します。不登校やいじめ、SNS、スマホやゲームとの付き合い方など、この時代ならではのさまざまな課題に対峙しながら、子どもたちの多様な個性や、在り方を受け止められる社会でありたいと、学校の先生がたや、民間企業、第三セクターなど、さまざまな人たちの取り組みの努力や試行錯誤が起こりつつあります。成績や偏差値、出席できているかいないか、といった「これまでの価値観、社会規範による評価軸」からだけではなく、もっと子どもの心や身体、生活の全体を見守っていくような考え方や仕組みも社会の各所に生まれつつあります。どの子にとっても、自分にとって望ましい選択肢がいくつかある、という状態を社会全体でめざしていけるとよいのでしょう。
世界をみても、ロシアのウクライナ侵攻はまもなく2年の歳月が流れますが、いまだ収束できず、パレスチナでのイスラエルとハマスの紛争は目を覆いたくなる悲惨さで続いています。それぞれの歴史の文脈を紐解いても、それぞれに立場があり、言い分があり、正当性がある。それが世界の多様性です。
生成AIのルールづくりも同様です。誰かが、どこかの企業が、自己の利益優先で思考しても、全体のルールとしては受け入れられません。未来を見越して、世界の平和と人類の発展に寄与するAIの使い方はどのようなものなのか。どのような制限やルール、監視体制などの枠組みを設けていくべきなのか。自国の論理や、一企業の利益を飛び越え、全体最適な議論が結ばれていくことが全世界からの期待でしょう。
対話と創造性が、新しい時代の枠組みをつくっていく
混沌とした世相の中で、新しい枠組みを見い出すために必要なこと。それは、さまざまな立場の人間が、大人も子どもも、「自己をしっかりと認識し、同時に他者を深く理解し受け止めようとする姿勢をもつ」ことと、それにより、「ポジティブで生産的な対話」を結んでいくこと。また、多様な立場の境界線をまたいで全体最適な答えを導き出すために、既存の価値観に捕らわれない発想や、新しいテクノロジーの力も使って「創造性を発揮」していくこと。この「対話」と「創造性」が、次の時代の教育に必要な本質的要素であろうと思います。
どれだけ「本音」で話しているか。どれだけ「本質」を見極めようとしているか。
先日、とある教育者のかたとお話ししていたら、「日本人は皆、着ぐるみを着ているからなあ」とおっしゃっていて、それをきいてドキッとしました。「みんな仮面をかぶって、自己を表出したり、本音で語り合ったり、がなかなかできない」ということをおっしゃりたかったのだと思います。
また別の日に、職場の若いメンバーとゆっくり食事をしていたら、後日、「こんなに人と深い話をしたことは、これまで、あまりなかった」と感想を伝えにきてくれて、うれしいと同時に、少し驚きました。
自分を出す前に、周りの雰囲気にあわせてしまう。そういうことが、日本人の日々の生活の中で、「あたりまえ」になりすぎているかもしれません。SNSなど、インスタントなコミュニケーションツールで、各々の感性を発露していくという機会もありながら、一方で、誰かと本音で深く対話している、そういう場が、家族の中や、学校や、別の居場所の中でちゃんとあるということが、これからの時代を紡ぐ中で、ひとりひとりの子どもに、とても大切なのではないかと思うのです。
新しい年に向けて
来年も、「おとなたちと、子どもたちが、本音で、自己を自由に表出しながら語り合える対話の場」づくりを丁寧にしていくこと。その安心安全の場で、子どもたちの、大人にまさる自由な創造力を個性いっぱいに発揮してもらえるよう、最良な環境づくりをしていくこと。
そのために、講師の皆様や、保護者のかたがた、共創パートナーの皆様、プロジェクトメンバーなど、おとな同士の対話の機会も大切にしていきたいと考えています。この「対話と、個性を発揮できる自由な創造的探究の場」から、新しい時代に向けた、新しい可能性の芽が伸びていきますように。2024年も、このプロジェクト活動を志事(しごと)として、ベネッセメンバー一同、本質的な議論をしながら、歩みを前へと進めてまいります。この1年、ご一緒くださいました皆さま、大変ありがとうございました。来年も明るい未来に向けての協働を、どうぞよろしくお願いいたします。
城座多紀子 Takiko Shiroza (みらいキャンパス総合責任者)