自ら選びとる多様な経験で、人としての「根っこ」をつくる 

共創レポート
2024.07.26

「おとなの対話の会 本当の話をしよう」第4回目を7月16日に開催しました。この対話の会は、毎月第3火曜日のお昼に、ベネッセ社員や、みらいキャンパスの保護者の皆様、講師、未来の学びデザイン300人委員会の皆様にご参加いただき実施しています。
今回は、 教育現場のプロをお招きし、幼少期~青年期の経験がどのように「生きる力」につながっていくか、というテーマで語り合いました。その対話の様子をみらいキャンパス総合責任者の城座(しろざ)がレポートします。 

■國分幸雄氏 

東京都内の学童保育所支援員。バオバブ保育の会、保育士。2児の父。保育のモットーは「子どもの何気ない日常こそ大切に」。長年に渡り、愛情深く、穏やかに子どもたちを見守り続ける懐の広さに、子どもたちや保護者も絶大な信頼を寄せている。 

■木村治生氏 

ベネッセ教育総合研究所主席研究員。2児の父。子どもの生活や学び、保護者の教育に対する意識や行動、教員の指導の調査研究に携わる。専門は教育社会学、社会調査。やわらかく温かい眼差しとお人柄に魅せられるファンも多い。 

幼少期~青年期に、人として生きていくための「折れない根っこ」を創っていく 

最初に、長年に渡り、保育士や学童支援員として、多くの子どもたちに関わられてきた、國分さんからお話を伺いました。「人間として強く生きていくために、そのあとの人生で、ポキッと折れてしまわないような『根っこ』をつくることが大事」というお話をしてくださいました。ヒヤシンスの水耕栽培をしたことはありますか?まだ球根の時代に、器を黒い紙で覆ってやると、根っこが育ちはじめます。育ちきらないうちに、黒い紙を外してしまうと、根っこが十分に育たず、そのあと、ヒヤシンスは茎をのばしたり、花を開かせたりすることが難しくなってしまうのだそうです。そんなふうに「まずは、根っこがしっかり育っていくこと」が、そのあとの「生きる力」につながっていくとのこと。折れない心。目標に向かう力。自分は自分のままでよいのだと思える自己肯定感。そうしたものが人間の「根っこ」となって、そのあと、自信をもって前に進める。ちょっとした失敗や挫折があってもくじけず、また前を向く力がわいてくる、など、その人をまさに「根っことして支えて」くれます。

「根っこ」を育んでいくための、たっぷりとした無償の愛情と、さまざまな経験(遊び) 

まずは子ども時代に「根っこ」を育むこと。そのために、たっぷりとした愛情を注ぐこと、さまざま経験(遊び)をしていくこと、の大切さにも触れられます。たとえば「泥だんご」づくり。ぴかぴかの、とっておきの「泥だんご」をつくるには、工夫や、忍耐、試行錯誤などが必要になります。時には、完成した途端に、誤って壊してしまったり。そんな時には「失敗から立ち上がる力」も求められていきます。「つくる」「工夫する」「できあがって喜ぶ」「みんなにすごいねっていわれる」「落として壊す(失敗する)」「くじけず、立ち直る」など、一連の経験(遊び)の中で、子どもたちはさまざまな状況とともに、さまざまな感情も体感します。そのひとつひとつの体感値が、経験的な学びとなって、その子の中に残り、強い根っこをつくっていくのです。 

豊富な選択肢の中から「自分で決めた」と思えることが、前に進むエネルギーになる

経験(遊び)の選択肢は多いほうがいい。そしてそれはできれば、「誰かにやらされるもの」ではなく「自分が選びとったもの」であるほうがいい。なぜなら「自分が『やりたい』からこれをやっているんだ」と心の底から納得していることが、前に進み、ちょっとやそっとじゃあきらめずにくらいついていく、その勇気や挑戦心などのエネルギーになっていくからです。けん玉で「もしもしカメよ…(歌)」の動作を1000回連続で達成したときの子どもたちの喜ぶ様といったら…!そんなわかりやすい例えを出しながら、國分さんが参加者の皆さんに語り掛けると、ご自身の子ども時代を思い出してのことか、参加者からうなずきや笑顔が生まれていきます。皆さん、なにかしら夢中になって没頭した経験が、自分の根っこの一部につながっていることを思い出されたのかもしれません。 

非認知能力や認知能力を高め、自己肯定感につながっていく「チャレンジングな経験」 

次に、ベネッセ教育総合研究所の木村さんが、さまざまな経験の中でも、より深い洞察が得られるような経験(ここでは「チャレンジングな経験」と命名)、つまり、以下のような経験を重ねていくことが、より深い学び(根っこづくり)につながっていく、と語られます。 

■好奇心・探索の経験(疑問に思ったことを自分で深く調べる) 
■夢中・没頭の経験(夢中になって時間がたつのを忘れる) 
■果敢な挑戦の経験(無理だと思うようなことに挑戦する) 
■達成・自身の経験(難しいことができて自信がつく) 
■将来を考える経験(自分の進路(将来)について深く考える) 

泥だんごづくりもそうですが、ひとつの体験(遊び)の中で、さまざまな感情が生まれ、楽しさがあり、発見があり、失敗や試行錯誤、他の子たちとの共創や協働が起きたりします。だから、特別な体験を用意しなくても、日常の中でさまざまな経験をする中で、こうした体験のひとつひとつが、「自分の根っこにつながっている」と意識していくことも大切、とのことでした。 

ピアジェが提唱した「構成主義」の考え方では、自分の既存の概念と実際に経験したことを照らし合わせて、自分のもともともっていた認識の枠組み(スキーマ)を変えていくことが「学び」の本質だと言われています。國分さんの「泥だんごづくり」の話にも、泥だんごをうまく作れない子どもが経験によってスキーマを変容させていく様子が出ています(「構成主義」※図表①)。 

図表① ピアジェの学習理論「構成主義」 

さらに、人は他の人との相互作用、関わりを通して学んでいく、ということを伝えられます。熟練者(先生だったり、友達や先輩だったり、、、)が、その対象にどう関わっているかを横から眺めみる。アドバイスをもらったり、模倣したり(ヴィゴツキーが提唱した学習理論「社会構成主義」図表②)。たしかに、日常の出来事や仕事に照らし合わせても、ひとりで何かを経験するより、誰かと一緒に発見したり、試行錯誤したりするほうが、多くの学びが得られるような気がしますね。 

図表② ヴィゴツキーの学習理論「社会構成主義」 

以上のような理論からも、人との関わりの中で、自ら能動的に対象にかかわっていくような経験、プロセスそのものから、多くの学びが得られることがわかります。「あるものを記憶していく」という学び方だけでなく、「経験というプロセスの中をかいくぐっていくことで学びとして身になっていく」ような「チャレンジングな経験」も大切。そうした経験に基づいた学びは、粘り強さや挑戦心といった非認知能力にも、知識や理解といった認知能力にもつながっていくのだそうです。さらに、子どもを対象とした調査では、経験が豊富な子どもは自己肯定感や幸福感が高いという結果も出ているとのこと。 

ここまでのお話をきいて、あらためて、参加者の皆さんと「広い意味での学び」として、能動的に物事に関わっていく経験、他の人からの影響を受け合うなかで学びとっていく「チャレンジングな経験」の大切さについて、深く考える時間となりました。 

私たちおとなも、どこかの時点で「生きる力につながる『根っこ』」を育んできた 

そして、このあと、ブレイクアウトルームにわかれて、自分の「根っこ」がどんなふうに創られてきたか、幼少期~青年期の具体的な経験を思い起こしながら、ほかの参加者とシェアをしあいます。そして、各々の経験を振り返りながら、いま、目の前にいる子どもたちのその「経験というプロセス」をいかに大事にしてあげられるか。そのために大人はどんなふうに接してあげるとよいのか。を語り合いました。 

「夢中で没頭する時間をできるだけ保証してあげたい」「おとなの都合で『はやく終わらせなさい』『次はこれをやりなさい』と安易に言ってしまわないように気をつけたい」というような意見がたくさん出ました。その一方で、「理想はそのとおりだが、実際は『おとなの都合や意志』が先に出てしまいがちなのが難しい…」といった本音の感想もたくさん出ました。 

子どもも大人も、人間同士のつきあいなので、それぞれの想いを出し合いながらも、ついつい、大人が子どもをコントロールしすぎないように。その子にとっての「大切な時間、大切な経験の機会」「自ら選びとっていくチャンス」をできるだけ尊重してあげられるようにしたいなあと考えさせられた1時間となりました。 

正直に思いを出し合いながら、子どもたちへの関わりかたをご一緒に考えていけるこの「対話の会」の貴重さや尊さにあらためて感謝しました。いつも参加くださる皆さま、今回はじめてお越しくださった皆様も、本当にありがとうございました。またぜひ、さまざまなテーマで語り合いましょう。 

「おとなの対話の会 本当の話をしよう」は毎月、趣向を変えながらすすめてまいります。次回は8月20日(火)のお昼です。現役の高校の先生をお招きして、「子どもたちの自分軸にそった進路選択をサポートしていくには」というテーマで話し合います。無料でご参加いただけるオンラインのカジュアルな会なので、前回お越しくださったかたも、次が初めてのかたも、ぜひお気軽に立ち寄っていただけましたらうれしいです。ご一緒に、皆さんそれぞれの「本当の話」に耳を傾けあっていきましょう。 

今回の「本当の話をしよう」のゲストスピーカーによるトークパートの録画> 

<参考リンク>

■ベネッセホールディングス プレスリリース【小学生から高校生の学びに関する9年間の追跡調査データ】「チャレンジングな経験」は 子どものさまざまな能力と関連https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001259.000000120.html

■調査の詳細(ベネッセ教育総合研究所ホームページ)https://berd.benesse.jp/special/datachild/datashu06.php

■木村治生氏寄稿「経験から学ぶことの大切さについて」https://miraicampus.benesse.co.jp/contents/1514


<次回8月の「本当の話をしよう」のご案内> 

■詳細ご案内はこちら(PDFが開きます) 
■お申込みはこちら 

城座多紀子 Takiko Shiroza (みらいキャンパス総合責任者) 






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